
時空ロード新書第1弾
「お気に入りのドレスで」
価格 : 600円(税込)
サイズ : 130×210
ページ数 : 144ページ
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四六判「男の牡学」
Dangerous Story
僕が女性をオンナと呼ぶようになって久しい。その根源を明らかにしなければならない。
小学四年、9歳。
素晴らしい光景を目にしたことからはじまる。
当時、僕の家は三軒長屋の大家をしていた。一番手前のご亭主は、肉の卸売を生業とするマーロンブランド風の渋くていい男。奥さんはその夫によく尽くす人だった。
ひとつおいて一番向こうの端は気っ風のいい旦那で、オトコの匂いがプンプンする鳶職だった。奥さんは腕に刺青があるらしくいつもガムテープでそれを隠していた。ある日、テープを貼り替えているところを見てしまった。腕には"〇〇命"と書かれてあった。それはご亭主の名ではなかった。
……オンナが生きていくための手管を見た。
真ん中の部屋は大学生が住んでいた。親は開業医。つまり道楽息子で金使いの荒い遊び人の坊ちゃんなのだ。その坊ちゃんの部屋によくクラブのオンナが遊びに来ていた。
ある日、坊ちゃんはそのオンナを部屋から引きずり出し往復ビンタを喰らわしていた。オンナも怯まず毅然としてその坊ちゃんに立ち向かっていた。
……オンナという凄い生き物を見た。
オンナが着ていた真っ赤なワンピースは今でも目に焼き付いて離れない。
その光景のなんと美しかったことか。
子供心に、これこそ"究極の美"と心に深く刻み込んだ。

▼ 本書『一人称虚数』は、『同匂』2016年8月発行、『同貉』2016年12月発行、『お気に入りのドレスで』2018年8月発行、『行きがけの駄賃』2018年11月発行、合本『裏切りの匂いを啜れ』2018年12月発行、合本『描きかけの刻』2019年9月発行、『血液内科化学療法198日』2020年1月発行、2021年の新原稿『一人称虚数』以上8篇を殴り書き粋狂連+Saturday Stone氏と共に筆者が再編集合本としたものです。
不条理も想定外もすべては世の問いから出来上がっている。
人はその問いに答えることで一生を終える。
わたしは一ミリほどの小さな問いを立ててみた。
その瞬間、すべての景色は虫瞰から鳥瞰に変わっていた。
( page 472「一人称虚数」ひとり問答 )