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時空ロード新書

Pocket edition

時空ロード新書・第1弾

「お気に入りのドレスで」

お気に入りのドレスで表紙カバー.jpg

定価 : 600円(+税)

サイズ : 130×210

ページ数 : 144ページ

​脱稿 : 07.07.2018

僕に何かが起こった。もはや疑いの余地はない。それはありふれた確信や赤裸々な事実とは全く違う、過去の経験にないものだった。急に現れたにもかかわらず30分ほどいすわった。かなり傲慢に、いくぶん波立ち、そいつは動かなくなった。そして僕を納得させる現実が車内に展開する。

 

空から助手席に桜の花びらが1枚、それがくっきりと現れた。僕の手の中には新しい何かが温もっていた。あるいはむしろその花びらを、どう手で握ったかが問題だ。車は止まった。というのは、景色が止まったからだ。

その逆に、まるで生き物のように時が逆回りを始めた。僕は手を開いて眺めた。単にハンドルを握っていたにすぎない。

 

改めて空を仰ぐ。

挨拶してきた桜の花びらは、知らん顔して立ち去った。僕の手の中には巨大なのような過去がはびこっていた。

その過去が僕を生かし育ててくれた。全身の血管に恩恵が溢れ感謝する筋肉がじっとしていなかった。僕はそれを親に打ち明けようと電話ボックスに向かった。 

 

この信号ひとつ渡れば電話ボックスだ。うさんくさい通行人が信号を待つ。この数分間なにが起こったのか、どこで、いつ、だれと。

それは特定できない象徴的な変化だ。変わったのは信号なのか、僕なのか。もし僕でないとすれば、この信号と自然が虚ろに変化したとしか思えない。

 

そうだ変わったのは僕だ。それがいちばん賢明な解答だ。しかし最も不愉快な解答でもある。

 

悔しいが変わった僕を認めるしかない。 

この昼さがりに。

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