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時空ロード新書 第2弾
行きがけの駄賃
小学校、中学校、高等学校、大学と刻を重ねていく主人公。だが「できそこない」はいつまで経っても「できそこない」だった。僕の履歴は想定外が渦巻く社会で作られていく。

僕が女性をオンナと呼ぶようになって久しい。その根源を明らかにしなければならない。

小学四年、9歳。

素晴らしい光景を目にしたことからはじまる。

当時、僕の家は三軒長屋の大家をしていた。一番手前のご亭主は、肉の卸売を生業とするマーロンブランド風の渋くていい男。奥さんはその夫によく尽くす人だった。

ひとつおいて一番向こうの端は気っ風のいい旦那で、オトコの匂いがプンプンする鳶職だった。奥さんは腕に刺青があるらしくいつもガムテープでそれを隠していた。ある日、テープを貼り替えているところを見てしまった。腕には"〇〇命"と書かれてあった。それはご亭主の名ではなかった。

……オンナが生きていくための手管を見た。

真ん中の部屋は大学生が住んでいた。親は開業医。つまり道楽息子で金使いの荒い遊び人の坊ちゃんなのだ。その坊ちゃんの部屋によくクラブのオンナが遊びに来ていた。

ある日、坊ちゃんはそのオンナを部屋から引きずり出し往復ビンタを喰らわしていた。オンナも怯まず毅然としてその坊ちゃんに立ち向かっていた。

……オンナという凄い生き物を見た。

オンナが着ていた真っ赤なワンピースは今でも目に焼き付いて離れない。

その光景のなんと美しかったことか。

子供心に、これこそ"究極の美"と心に深く刻み込んだ。

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